速い。でも、通用しない。―速いことで失われがちな能力とは―

育成年代の選手では、「速い選手=優れた選手」であると評価されることがあります。

足が速いことは大きな武器です。

  • スプリントで相手を置き去りにできる
  • 一瞬でスペースへ走れる
  • ピンチの場面で素早く戻ることができる

速いことで活躍できるシーンは少なくないと思います。

一方で、こんな経験はないでしょうか?

  • タイムは速いのに、なぜか寄せが遅れる
  • 動き出しは良いのに、外されてしまう

足は速いはずなのに…

タイムは良いんだよな…

数値が同じでも、試合になると「間に合う選手」と「間に合わない選手」に分かれることがあります。

この差はどこから生まれているのでしょうか。

目次

その時起きていること

速いはずなのに、試合で速さを上手く発揮できない。

いったいなぜでしょうか?

①出た反応を止める力が不足している

一般に「反応が速い」と言われるとき、複数の要素が含まれています。

・Reaction Time(RT)

…合図や刺激に対して、動き出すまでの速さ

・Stop-Signal Reaction Time(SSRT)

…一度出かけた反応を止める、修正するまでの速さ

RTはトレーニングによって比較的伸ばしやすく、走力や敏捷性の向上に関連して変化すると言われています。

一方で、競技レベルが上がるにつれて差が出やすいのは、「出た反応を抑える」「途中で修正する」というSSRTの部分です。

つまり、「動き出しは良いのに、外されてしまう」という状況を考えたとき、
この選手はSSRTの未熟さが一因となり、持っている速さを生かし切れていない状態である可能性が考えられます。

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②速さによって失敗がマスキングされている

ここで重要な視点があります。

速く走れること自体は間違いなく大きな武器です。

そう思っているからこそ、私は「速さ」を看板にしたスクールを運営しています。

しかし、育成年代では速さがあることで別の学習を妨げてしまうことがあります。

速いがゆえに、

  • タイミングが多少ズレても、追いつけてしまう
  • 判断が遅れても、スピードでカバーできてしまう
  • 外されても、追いついてしまう

結果として、「誤った反応でも成功してしまう」という経験を積みやすくなります。

そうした経験を持ったままカテゴリーが上がることで、いつしか誤った反応が通用しなくなり、

「速さを生かしきれない」という状況に陥ると考えることができます。

これは、速い選手の問題ではなく、速さによって学ぶ機会が減ってしまう構造の問題です。

速さだけを磨いても、差は埋まらない

このような選手に対して、どう対応していけばいいのでしょうか。

  • 逆を取られてしまうから、ピッチを改善する
  • フェイントに反応できないから、切返しを反復させる
  • 動き出しが速くなるように、声がけをする

こうした介入は一見有効そうに見えますが、スピードのある選手に対しては期待した効果が得られないことがあります。

なぜなら、

誤った反応(判断)→それでも間に合う

という成功体験がむしろ強化されてしまう可能性が高まるからです。

その結果、

  • 正しいタイミングを探ろうとしない
  • 一度出た反応を止める必要性を感じない

という状態が固定化されていきます。

速さをどう使えば効果的なのかを学ぶ機会が設計されていないことにより起こる問題です。

速さでは解決できない課題を設計しよう

このような選手に対して必要なのは、速さだけでは解決できない状況を意図的に設定することです。

具体的には、

  • 出るタイミングが早いと失敗する
  • 出た反応を止める必要がある
  • 反応を抑える方が有利になる

といった場面を経験させることです。

具体例を考えてみましょう。

①出るタイミングが早いと失敗する

ルール

  • 合図(笛・声・手など)でスタート
  • 反対側にゴールがある
  • ただし、途中でもう一度合図があった場合、スタート地点がゴールになる(戻らなければいけない)

ここで起きていること

  • 2度目の合図がある場合、全速力でスタートした選手が不利になる
  • 周囲の選手を観察し、同じくらいのスピードで出る方が勝率が上がる

「出たい!」という衝動を抑えるという経験を作ることができます。

②一度出たら、止める必要がある

やること

  • 前方にいるコーチに向かって走り出す
  • コーチが手に持っているマーカーを落としたら止まる
  • 止まれなければ負け

ここで起きていること

  • 反応を途中で止める練習
  • 速いほど止まる難易度が上がる
  • 速さと制御を同時に扱う必要が出てくる

「速い=成功」というパターンを崩すことができ、速さをコントロールする経験ができます。

③反応を抑える方が有利になるドリル

やること

  • スタートの合図を複数用意する(手を上げる・頭を触る・肩を回す・反対の手を上げるなど)
  • そのうち1つ(頭を触る)だけがスタートの合図、他はダミー
  • ダミーの合図で動いたら失格

ここで起きていること

  • 「即反応」よりも「待てる」方が有利
  • 反応を保留する選択肢が生まれる

衝動的な動きよりも、コントロールされた動きが評価され、反応を抑える経験ができます。

ドリルを考える上で重要なこと

速く動いたかどうかではなく、ズレに気づくこと、そしてそれをいち早く修正することが結果に結びつくような構造になっているかが重要です。

    こうした設定にすることで、

    • 速さ+制御
    • 速さ+判断

    という形で、速さが「使える能力」に変わっていきます。

    「速さ」を看板に掲げたスクールを運営していて非常に残念なのは、速いことで判断を修正する学習をしないまま成長してしまう選手がいることです。

    こうした選手に対しては、「もっと速く」ではなく、「出た反応をどう変えるか」を問う局面を意図的につくる必要があります。

    速さを競技に活かすためには、このようなアプローチが非常に重要です。

    まとめ:速さが学習を妨げることもある

    「速い」ということは素晴らしい武器です。

    しかし、競技で活かせるかどうかは環境次第です。

    「速さが通用しない場面」を適切に設計し、「反応を抑える・変える」という経験を積んでいく必要があります。

    そうした設計により、速さと反応の質が揃った選手を育成していくことが可能となります。

    最後までお読みいただきありがとうございました!

    参考になれば幸いです。

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